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横浜市医師会 様

コロナワクチン接種管理システムを、たった1か月で構築から運用まで実現した活用法とは



一般社団法人横浜市医師会は、横浜市内で従事しているドクターの会員団体です。開業医と勤務医で、人数は約4300人規模となっています。活動は予防接種事業や健診事業、地域医療連携センター事業、救急医療事業、地域包括ケア事業など多岐にわたり、例えば、行政からの委託で市内3か所に夜間急病センターを設置しています。横浜市医師会の従業員は常勤事務職員が50名です。

「kintone」とトヨクモ製品は、新型コロナワクチン集団接種会場に従事する医師・看護師の派遣調整を行政から受託するために、2021年4月に導入していただきました。接種を始めるまでの準備期間は1か月程度しかありませんでした。当初は外注しようと考えたそうですが、見積もりを依頼したところ、なんと1億円を越えていたので断念されたそうです。

今回は、「kintone」とトヨクモ製品を組み合わせることで、ワクチン接種業務のために多数の医師や看護師を編成するシステムを構築した、総務課企画調整室の斎藤健氏にお話を伺いました。

一般社団法人 横浜市医師会 総務課企画調整室 斎藤健氏。 


ワクチンの集団接種に関するアプリ群を短期間で内製化した


 横浜市医師会では、2020年の秋にも「kintone」の導入を検討したことがありました。事務業務の効率化と電子決裁によるペーパーレス化を実現するため、ワークフローのツールと「kintone」を同時に入れようとしたのです。しかし、その時は「kintone」導入の目的をはっきりと提示することができず、稟議が通りませんでした。

しかし、その直後の2021年1月、行政から新型コロナウィルスのワクチン接種を委託されることになったのです。横浜市は人口が多いので、ワクチン接種を短期間に医療機関だけで接種するだけでは、まかないきれません。そこで行政から、集団接種会場を設置し、接種する看護師と医師を横浜市医師会から出してほしいと依頼がありました。

「実は最初、うちでは受けられないと考えていました。医師会は会員医師の情報は持っていますが、看護師さんについてはまったく情報がなかったからです。その看護師の編成を作ったり、出動日を管理したり、給料の支払いをするようなシステムが存在しません。うちには無理だと思い、外部業者に再委託を検討したのです」(斎藤氏)

横浜市医師会の集団接種チームの皆さん。


 実現したかった機能や業務の一部を除いた状況でも、外部業者からの見積もり金額が1億円を超え、コスト面で断念することになりました。答えが出ないまま時間が過ぎ、自分たちでやろうと決断したのが3月になってからです。手詰まりの状態でしたが、ワクチンは自治体に供給されてきますし、集団接種をしなければ市民のワクチン接種が広がりません。追い詰められた斎藤氏は横浜市医師会の他のシステムを手掛けているベンダーに相談しました。

そこで、数か月前に検討した「kintone」とトヨクモ製品を連携させれば、欲しいシステムが作れるかもしれない、とアドバイスしてもらったそうです。実は、国が利用していたワクチン接種の契約管理システムは、海外製のツールを使っていたのですが、長い間登録ができないなど、初期トラブルが多かったそうです。ベンダーから、「kintone」の基盤はしっかりしていると説明されたので、「kintone」を選ぶことにしました。

 すぐに無料お試しを開始し、アプリを作ってみたところ、斎藤氏は使いやすいと手ごたえを感じました。できるかどうかはわからないが、これで行こう、と決断したのです。すぐにアプリの開発をはじめ、2週間くらいで基本的な運用を開始するところまで漕ぎつけました。

 斎藤氏はプログラミングができるわけではありません。コロナ禍で通常業務も忙しく、日中は、打合せや電話対応に追われている状態です。電話が一段落した夕方からアプリを作り、通勤時にkintone関連の動画を見て勉強しました。

「それなりに苦労しましたが、『kintone』もトヨクモさんの製品も、非IT部門の自分でも、全体的なイメージさえできれば比較的簡単に作れました。アプリの運用も事務局職員で編成した集団接種チームや派遣職員で対応する事が出来ました」(斎藤氏)


 今回は、ワクチン接種という明確なミッションがあったので、すんなりと「kintone」の導入にOKが出ました。当初、集団接種は数か月間実施する想定だったので、月払い契約にする手もあったのですが、斎藤氏は年払いを提案しました。kintoneを触るうちに、ワクチン接種以外の業務にも活かせるという確信が得られたためです。横浜市医師会の会長や執行部の先生方たちも「kintone」導入に前向きで、背中を押してくれたそうです。


ワクチン接種の規模が大きくなってもフォームブリッジ、kViewer、kMailerで対応


「kintone」で最初に看護師と医師を登録するアプリと、接種会場を登録するアプリを同時並行で開発しました。4月下旬からワクチン接種が始まるので、4月頭にはもうアプリを公開して、登録を始めました。医療機関には「フォームブリッジ」から看護師さんに登録してもらうように呼び掛けてもらいました。また、医師については区医師会に登録を依頼しました。

「トヨクモさんの製品を組み入れたのは、市の医師会以外の区の医師会や行政の人もこれらのアプリにアクセスして共有することが重要だと思ったからです。最初は『kintone』のライセンスを払い出そうとしていたのですが、『フォームブリッジ』や『kViewer』、『プリントクリエイター』を組み合わせて、それぞれが必要な部分を共有する方がいいと考えました。その人に必要な部分だけを閲覧、編集できるようにして、できるだけ簡単に見えるように、こだわって作りました」(斎藤氏)


最初のアプリはシンプルな構成でした。例えば、看護師登録フォームでは、まず医療機関を選択し、名前や生年月日、振込口座、看護師免許証などの情報を入力してもらいます。

シンプルで迷わず入力できるように工夫した看護師登録フォーム。


 登録してもらった看護師に対しては、出動日の前に、確認メールを一通ずつ送っていたそうです。当然、人の手が必要になるので、派遣会社に依頼しました。しかし、接種会場の登録アプリを見ながら、一人ひとりに送るのは手間がかかります。開始時の4月下旬は問題なかったのですが、どんどん接種する会場の数が増え、規模も大きくなりました。

当初は各区に1か所の会場を想定していましたが、最大で月に30か所以上で開催することになったそうです。月に編成する医師の枠は、多い月で3000以上、看護師に至っては6000以上にもなったのです。しかも、当初数カ月間だった予定が、1・2回目接種については、結局12月まで行うことになりました。

このままだと業務がパンクすることが見えていたので、看護師登録アプリの内容を「kViewer」のMyページで参照できるようにしました。看護師はそこから自分のシフトや出動費の明細を確認できるようにしたのです。そのうえ、登録者に対して、「kMailer」で一気に確認メールを送信するようにしました。

多数の看護師や医師の編成を行い、プリントクリエイターで出力できるようにしました。


 Myページからは「プリントクリエイター」で作成した医療機関への出動依頼書をPDFでダウンロードできるようにしています。看護師の多くは医療機関に所属しており、休みの日に接種会場に来てもらうので、兼務になります。そのため、その医療機関宛に依頼文を用意し、必要に応じて使ってもらえるようにしているのです。3000人以上に個別に送るとなると膨大な作業が発生するので、あらかじめ手を打ったというわけです。

看護師自身の登録情報の編集、出勤予定表の出力が可能となっています。


 看護師も自分が濃厚接触者になったり、勤めている医療機関側でコロナ患者が出たりすると、そちらに従事する必要があり、ワクチン接種業務をキャンセルすることも多かったのです。そのため、前日の確認連絡や、キャンセル分の補充という作業が必要でしたが、そこも「kintone」でカバーしました。

 個別の連絡は、サイボウズ社が提供する「メールワイズ」を利用して履歴を見られるようにしたのです。担当者が休みの時に電話がかかってきても、看護師登録アプリのその人のレコードを開けば、「メールワイズ」の履歴が全部残っているので、やり取りの状況を把握できるようになりました。

「外部に再委託しようとしたときは、このキャンセルの仕組みなどは入っていませんでした。もし、予算内に収まってお願いしたとしても、あのまま走っていたら、「kintone」を活用している今のようにうまくはいっていなかったと思いますね」(斎藤氏)

kintoneとトヨクモ製品を組み合わせて様々な業務課題を解決


横浜市医師会には多くの会議室があるのですが、来訪者がどこに行けばいいのかわからない、という課題がありました。ホテルの入り口にあるようなサイネージが欲しいと考えたそうですが、職員の端末から表示登録が出来る仕様で見積もりを取ると100万円を超えてしまいました。

「コスト面で外注を断念した時、年長の事務局長が、『kintone』でやればいいじゃない、と言ってきたのです。よく考えてみると、『kViewer』でリストを表示させればいいことに気づきました。そこで大きなテレビを用意して、『kViewer』で会議室の情報を表示するようにしました。kintoneや連携ソフトの運用は、技術や知識より創造力が大切なのかもしれません」(斎藤氏)


「kintone」アプリには、会議室の名前と開催日時、そして表示を自動終了する時間を入れます。kintoneのアカウントがない場合でも、「フォームブリッジ」からkintoneへ登録することができます。「kViewer」は30秒ごとに自動的にリロードするようにし、予定終了後はリストから非表示になるようにカスタマイズを加えたそうです。
※カスタマイズは、サポート対象外となります




 さらに、会議室の入り口にはそれぞれタブレットを配置し、「kViewer」でそれぞれの会議室の会議のみを表示するようにしたのです。来訪者はサイネージを見て会議室を訪れ、入り口で確認したうえで入室できます。

「来訪者の評判はとてもいいです。来訪者からは、このシステムの導入にいくらかかったか聞かれたのですが、ほとんどお金はかかっていません、というと驚いていました」(斎藤氏)

入り口に設置されたサイネージには、「kViewer」のビューが表示されています。


会議室前には、開催される会議名が表示され、来訪者が迷わず入室できます。


 そのほか、Excelや内線で集めていた役員会の議題も、「フォームブリッジ」の「常任理事会・理事会議題・シナリオ」フォームに入力してもらうようにしました。短時間で議題を集められるようになり、この業務がぐっとスリムになったそうです。


 アンケートもペーパーレス化しました。従来はFAX文化が根付いていたので、アンケートを取ると、1000枚単位のFAXが届き、部署の皆で読み解いてExcelに入力していたそうです。これも「フォームブリッジ」で回答してもらうことにし、アンケート結果を「kViewer」のダッシュボードビューでグラフを表示し、一目で把握できるようにしました。

「フォームブリッジ」で収集した情報をダッシュボードで可視化しました。


「業務の中でデータが一元化されないで困っていたのですが、今年度から、事務局全員にライセンスを渡し、『kintone』とトヨクモ製品でこんな風に効率化できるんだよ、と話をしました。年度末にkintoneアプリ大賞をやると言ったところ、若い職員たちから柔軟なアイディアが次々に出てきて、業務改善に繋がりました。本当に1年間で、ものすごい数のアプリを作成し、活用されています。これだけ盛り上がったのはとても嬉しいですね」(斎藤氏)

これまでは、WordやExcelで管理していた業務が多く、都度情報の更新を行うような枠に収まる業務が多かったそうです。そこで「kinotne」を導入し、そのほかの業務にも活用できるのではないかと提案し合える場面も増え、皆さんのやる気が格段にアップしたそうです。


Toyokumo kintone App認証も活用しています。受託しているがん検診では、検診の結果、精密検査となる人が出てきます。その人たちがきちんと検査しているかどうかを追跡する必要があるのですが、従来は複写式の紙を医療機関に送ってやりとりしていたそうです。これでは、時間もかかりますし、見落としが出てしまう可能性があります。

そこで、検診実施医療機関にToyokumo kintone App認証を経由して、「kViewer」のビューを開いてもらい、受診者の状況を確認、報告してもらうような仕組みを若手職員が構築しました。

「Toyokumo kintone App認証を採用したのは、セキュアな運用が絶対に必要だったからです。がん検診の結果に関わる部分ですので、情報が漏れないような形で運用するには、これしかないと考えました。現在稼働をはじめ、その効果が出始めています」(斎藤氏)

最後に、今後の展望について伺いました。


「『kintone』とトヨクモ製品を活用できる業務はまだまだあると思っています。今後もっと様々な業務に展開し、効率的な運用をしたいと考えています。今課題になっているのが、大規模災害が発生した時の情報収集です。

まだイメージの段階ですが、災害発生時に、会員の医療機関がきちんと動けている状況なのかを『kintone』と『kViewer』、『フォームブリッジ』で一元化して管理しようと考えています。会員数の多い横浜市医師会では、電話で確認しようとすると一気にパンクするので、そういう仕組みをこれから作っていければなと思っています」と斎藤氏は締めてくれました。

記事公開日:2023年7月25日
※事例記事の内容や所属は取材当時のものとなります