湘南鎌倉総合病院は神奈川県鎌倉市にある総合病院で、救急車を断らないというのが大きな特徴です。救急搬送件数は年間約1万8,000件で、日本で最も救急車を受け入れている施設であり、コロナ禍の第6波では、県を跨いでの搬送も増加し1日90台以上を受けいれた日もあるとのことです。
指導医も多い湘南鎌倉総合病院は医学生からの人気も高く、見学者も多いのですが、業務フローに課題がありました。以前は、学生が病院見学の申し込みフォームに入力すると、入力内容がメールで送られてくるので、スタッフがExcelにコピー&ペーストしてリスト管理をしていました。しかし、この作業負荷が高く、管理しきれない状態だったのです。
そこで、データベースとして「kintone」を導入することになり、申し込みフォームから直接データを登録するために「フォームブリッジ」を導入していただきました。そこを皮切りに、「kMailer」や「kViewer」「プリントクリエイター」「データコレクト」も導入し、院内DXを推進。フォームブリッジとkViewerは、プロフェッショナルコースの契約で、「Toyokumo kintoneApp認証」も活用されていました。
今回は、kintoneとトヨクモ製品を連携し、病院見学申込みフォームや医師向けの資格管理システム、コロナ検査結果SMS登録フォーム、職員・近隣医療関係者向けCovid-19ワクチン接種予約フォームなどの業務システムを構築した経緯と導入効果について、湘南鎌倉総合病院 デジタルコミュニケーション室 具伊和之氏に伺いました。
湘南鎌倉総合病院 デジタルコミュニケーション室 具伊和之氏
採用活動をExcelからkintoneに変更したことで作業時間が3分の1に削減
具伊氏は2011年から2021年まで、医師の人事を担当していたそうです。見学の申し込みを募集すれば人は集まるのですが、メールをExcelに転記する作業が面倒なうえ、メールの見落としや返信忘れなどが頻発し、担当者の負担が増大しました。そのため、これ以上見学者を増やしたくないという心理的なハードルが生まれ、リクルート活動をセーブしてしまうような状況でした。
そこで、Webフォームから入力してもらった内容をデータベースに直接登録するような仕組みを構築することになりました。具伊氏はデータベースにkintoneを採用し、当時使っていたCMSと連携させようとしました。しかし、CMSでフォームを作り、kintoneに接続しようとしたところ、うまくいかなかったそうです。そこで見つけたのが、フォームブリッジです。kintoneと同時期にトライアルし、確実に動作することがわかったので導入していただけました。
「kintoneとフォームブリッジで申し込みを受け付けるようになり、まずExcelに転記する担当者の心理的な負担が減りました。もちろんエラーが減り、コピペすることもなくなったので作業的な負担も減っています。それまでは1時間で10人くらいしかさばけなかったのに、kintoneではその3倍は対応できるようになりました。そのため、学生の受け入れの回転数がよくなったのです」(具伊氏)
2018年の見学生は179人でしたが、2019年にkintoneとフォームブリッジを導入したことで、175%アップの314人となったのです。
kMailerも同時期に導入しています。なんと、スタンダードプランが2つとプレミアムプランが1つの3契約をいただいています。それぞれ、異なる部署で使われており、医師向けの情報共有、看護師向けの情報共有、病院として利用するメインアカウントとして活用しているそうです。
見学会申込みフォームです。
医師が手間をかけずに資格を管理できるように「Toyokumo kintoneApp認証」を活用
湘南鎌倉総合病院では医師が300名ほど働いていますが、その中には医師免許に加え、様々な専門医の資格を取る人がいます。病院としては、専門医が一定数以上いる場合、教育施設であるというお墨付きをもらえる重要な情報です。しかし、病院あるあるとのことですが、医師は忙しすぎて資格の管理ができないことが多いそうです。そこで具伊氏に資格の管理システムを作るように依頼が来ました。
「kViewerのMyページだと固有のURLを特定の人物に発行して、クリックしてもらう必要があります。その場合ドクターは忙しく使い勝手が悪いと使ってくれないため、メール認証である、『Toyokumo kintoneApp認証』を利用することにしました。メールアドレスで認証してマイページに入れるので、使い勝手がいいためです。Myページの固有URLはメールの誤送信というリスクがありますが、メールアドレス認証ならセキュリティも強固にできます」(具伊氏)
「Toyokumo kintoneApp認証」でログインしたら自分の名前をクリックします。
資格管理システムのマイページにはユーザーの職員IDや氏名、職種、診療科、国家資格証、学位などが表示され、その下に保有する専門医の資格が一覧表示されます。証書の画像も添付されており、必要な時に探し回ることもなく情報を確認できます。
資格情報を追加したり変更する場合は、「追加/編集」ボタンをクリックし、自分でカスタマイズできます。各学会の専門資格は現在約170資格が登録されており、別アプリとなるマスタ情報から「kViewerルックアップ」で引っ張って表示しています。簡単にログインできるうえ、追加作業もわかりやすいので、忙しい医師でも隙間時間に対応できそうです。
このシステムはまだ稼働し始めたばかりとのことですが、資格情報がしっかり入力されていれば、病院に何人の専門医がいるかは手間をかけずに把握できるようになります。医師の手間も減らせますし、病院側もきちんと医師の資格を把握できるのが大きなメリットです。
取得した資格を追加したり、更新した情報を編集できます。
医師の保有資格を漏れなく一元管理できるようになりました。
トヨクモ5製品を駆使してワクチン接種の予約・受付け・アンケートシステムを構築した
「職員・近隣医療関係者向けCovid-19ワクチン接種予約フォーム」では、フォームブリッジとkViewerに加え、プリントクリエイターとデータコレクト、kMailerまでトヨクモの5製品をフル活用されていました。
「2021年2月からコロナのワクチン接種が国内でも打てるようになったため、ワクチンの接種プロジェクトが動きはじめました。まずは病院内の人たちが打つための予約や受付の管理をどうするのか、という話になったので、私が手を挙げました。4日後に予約アプリを作ってリリースしたら、『どうしてそんなに早く作成できるの?』と驚かれました」(具伊氏)
予約する際にカレンダーを利用しますが、予約できる人数には限りがあります。オーバーブッキングしてしまうと、当日接種できない人が出てきてしまいます。そこでデータコレクトを活用しました。
予約の残数に制限を設けて、申し込みがあったら自動的に残数を減らすようにしたのです。これは具伊氏がトヨクモのWebサイトで公開しているブログを参考にして設定したそうです。
カレンダービューで予約の残数が確認できます。
予約システムが希望通りに動作したので、次は受付システムも手がけることになりました。従来は、受付に職員が来たら、名前を聞いて紙の受付け表にチェックしていました。その作業が面倒だということで、予約時にメールアドレスを入力してもらい、予約日の前日にプリントクリエイターでQRコードを発行し、kMailerで個別に送信するようにしました。そして予約日に来場したら、受付けに備えたAndroid端末でQRコードを読み込むことで、紙でのチェックをデジタル化することに成功しました。
さらに、Myページ機能を使い、ワクチンを接種した職員に体調を報告してもらっています。接種後、24時間後と48時間後にkMailerでメールを送り、回答してもらっているのです。
ワクチン接種の前後には「kMailer」で連絡を自動送信しています。
「コロナワクチンのシステムが便利だと言うことが院内に知れ渡ったので、インフルエンザなど他のワクチンのシステムを作って欲しいと依頼が増えてきました」(具伊氏)
医師の電話掛けや結果の郵送をSMSで行うことで450万円ものコストダウンを実現した
湘南鎌倉総合病院では、コロナの検査も行っています。PCR検査の結果、陽性となった場合は、医師が患者に電話する必要があります。事務員でもナースでもNGとのことです。ただでさえ忙しい医師が電話をかけても、出なかったり圏外ということがあります。患者が着信を見て折り返し電話をしてきても、今度は医師が手術中だったりして、出られない可能性もあります。このコミュニケーション負担が大きな課題になっていました。
医師たちから相談を受けた具伊氏は「Covid-19検査結果 SMS通知システム」を開発しました。診察後、患者にフォームブリッジで作ったフォームから診察券番号と電話番号を登録してもらうようにしたのです。
そして、検査結果は電子カルテからCSVで出力し、kintoneに取り込んでデータコレクトでデータベースを突合します。その上で、陽性の患者にSMSで送信するのです。(SMS送信は、別途プラグインが必要です)もちろん、医師に限らず、事務員が作業してもOKです。
これはとても大きな導入効果が得られました。2月から9月まで1万2531回の通知を行っており、陽性者はそのうち6819人いました。医師が電話すると、340時間、人件費に換算すると205万円のコストを削減できたことになります。
陰性者は5712名で、こちらには郵送で結果を送付します。患者負担ですが、このコストが切手代を含めて約247万円かかっていたところもなくなりました。病院側としても、書類を折って封筒に入れたり、郵送する人件費も軽減できました。たった8ヶ月間で約450万円ものコストダウン効果は驚きです。
検査結果をSMSで送ることで、大きなコストダウンを実現できました。
最後に今後の展望を伺いました。
「まだkintoneのポテンシャルを十分に活かせていないと思っています。さらに職員の課題を集めて、可能な限り解決していきたいですね。病院には変化を嫌う傾向があるので、たくさんの課題を簡単に解決して、『デジタルって使いやすいね』という雰囲気を醸成することが自分の責務だと思っています。そのためには、kintoneとトヨクモ製品はマストアイテムです」と具伊氏は締めてくれました。