コロナ禍の健康観察システムを2週間でリリース!kintoneの全庁導入を推進した兵庫県庁のDX法とは
兵庫県では、令和3年4月1日に施行された「情報通信技術を活用した県行政の推進等に関する条例」(デジタル手続条例)に基づき、行政手続のオンライン化を進めています。県全体では約1万6000種類もの手続きがあるのですが、令和5年度までの3年間で、その中の約5000手続きを新たにオンライン化することを目指しています。
その業務を担当しているのが、デジタル改革課です。庁内の業務効率化に向けた様々なICT活用を進めており、これまでRPAやチャットボット、Excelなどを使っていたのですが、それでは解決できないような業務が出てきました。そこで導入したのが、「kintone」と「フォームブリッジ」、「kViewer」でした。
今回は、kintoneとトヨクモ製品でアナログの手続きをオンライン化し、業務効率を大きく改善した経緯と効果について、兵庫県庁 企画部 デジタル改革課の島村成貴氏と財務部 県政改革課の近藤直樹氏にお話を伺いました。
兵庫県庁 企画部 デジタル改革課 島村成貴氏と財務部 県政改革課 近藤直樹氏。
コロナ禍がきっかけでkintone×トヨクモ製品を急遽導入した
県庁では、部署ごとに、多岐にわたる業務があります。これらの業務は、Excelなどのソフトの各種機能を活用することで改善できる部分も多いため、デジタル改革課では、実務で使えるデジタルツールや事例等を説明した庁内向けマガジンの発信や研修等により、職員のICT活用力の向上を推進されています。
しかし、一般的なソフトを使うだけでは、改善できる範囲に限界があることも感じていたそうです。例えば、従来Excelでおこなっていた業務では、部署や職員ごとにファイルを保存するため、最新ファイルがわかりにくかったり、データの集約や更新を行うたびにメールの送受信・保存・編集等の操作が必要になったりするなど、課題があります。
「専用のシステムを入れるのは費用がかかるし、小回りも効きません。小さな修正が発生した時に、また業者に発注するのも手間とコストが発生します。専用システムを構築するほどではないけど負担になっているような業務で、素早く実装して改善できるツールが必要だという課題意識はありました。こうした業務に、ノーコード・ローコードツールが適していると考えました」と近藤氏。近藤氏は3月末までデジタル改革課に在籍し、島村氏と共に業務改善に取り組んでいました。
2020年4月、新型コロナウイルス感染者の宿泊療養が開始され、施設療養者に対して、1日に2回、体温や症状などの健康観察を電話で聞き取りをする業務が発生しました。しかし、瞬く間に感染が拡大し、電話による聴き取りや情報を記録・管理する業務量の増大が課題となったそうです。
すでに、ノーコードツールを調べていた近藤氏は、大阪府で健康観察にkintoneを活用していた事例を目にしていました。さらに、新型コロナウイルス対応の所管部局からも大阪府のような方法を導入できないか相談を受けたそうです。健康観察の対処も待ったなしです。そこで、kintoneとトヨクモ製品を導入し、健康観察のためのアプリを作成することになりました。
導入の決め手はスピード感だったそうです。大阪府の事例では課題が発生してから2週間で導入したと聞き、兵庫県庁にも導入できそうだと考えました。
「サイボウズさんに連絡し、大阪府さんが使っているアプリのテンプレートを活用させてもらって開発を進めました。4月20日頃に話をして、ゴールデンウィーク前にはアプリができました。その後、所管部局に見てもらい、説明資料も作り、ゴールデウィーク明けには本稼働できたのです」(近藤氏)
「このスピード感で進められたのはとても助かりました。もし、電話業務をそのまま継続していた場合、急増する業務量に対応できる体制を確保できなかったかもしれません」(島村氏)
フォームブリッジで健康観察の報告をしてもらい、kintoneに情報が自動的に入ることで、電話業務が不要になりました。患者にとっても、1日に2回電話がかかってきて話すよりも、自分でスマホから報告したほうがラクと感じる人も多かったそうです。
健康観察の報告を行う入力フォームです。kintoneに入力内容が登録されます。
「トヨクモ製品は本当にわかりやすく、簡単に作れるな、というのが第一印象です。例えば、フォームブリッジなら、ドラック&ドロップでフォームが作れます。自動返信や機能のオンオフも、kintoneと同じような感覚で、非常にわかりやすいです。インターネットやパソコンを触れる人だったら、サクサク作れると思いました」(近藤氏)
トヨクモ製品をフル活用し、全庁でのDX活用を推進
健康観察のシステムの導入に成功したので、kintoneを横展開していくことになったそうです。そこで、2021年にkintoneのワークショップを2回開催しました。まずはお試しとして、庁内の希望者を17人集めて、アプリ開発を体験してもらったのです。その取り組みで、自分自身でkintoneを使いたいと思う人が出てきたことで手ごたえを感じ、全庁展開することを決めたそうです。
例えば、技術企画課では各土木事務所に毎月、調査依頼をかけています。従来はExcelファイルでやりとりしていましたが、今はkViewerのリストビューとフォームブリッジを連携し、kViewerから入力してもらえるようになっているそうです。
その結果、従来は毎月2~3日かかっていた集計業務が不要になり、大きな業務改善となりました。
また、様々な業務に対応するため、フォームブリッジとkViewer以外にもトヨクモ製品の導入が進んでいます。高齢政策課では補助金の申請受付業務において、「kMailer」を導入して、県からの通知文書を送信したり、修正を依頼したりする際に利用しているそうです。通常のメールソフトにコピー&ペーストしていると誤送信のリスクがあるので、kintone上から直接送信できるようにしているのです。また、テンプレートの作成もできるため、これまで個別にメールに打ち込んで送付していた作業が不要となり、作業時間の大幅な短縮が見込まれているそうです。
「将来、後任の方や別の担当者が見ても、kintoneに修正指示が入っているので、情報の一元管理ができます」(島村氏)
予め設定した件名、本文のテンプレート内容が反映される
また、行政の手続きをオンライン化する際、役所の業務で利用する書類の様式に合わせなければならないこともあります。そんな時は、「プリントクリエイター」を利用し、書式に合わせて出力するようにしているそうです。
プリントクリエイターで、さまざまな雛形のPDFにkintone情報を出力することが可能です。
トヨクモ製品では、「kBackup」も契約されています。重要なデータが万が一消えてしまった時の備えとして導入されたそうです。膨大なデータが日々追加されていったので、容量を増やすオプションも追加されました。幸いなことに、現状はまだ「kBackup」でデータを復旧するといった機会はないそうですが、いざという時に備えてデータのバックアップが取れているということが、職員の安心感に繋がっているそうです。
kintone×トヨクモ製品の導入で、現場職員も簡単に業務改善ができるようになった
2022年、庁内に業務でkintoneを使いたいかどうか聞いたところ、71もの業務でkintoneを活用したいと手が挙がり、中でも庁内外への照会・調査・報告業務で活用したいという声が多かったとのことです。
現場職員が自ら開発した事例としては、会議室の予約・管理アプリがあります。部全体で共用している会議室について、従来は、各課からの予約を電話で受け付け、Excelの台帳で管理していました。フォームブリッジとkViewerを活用することで、オンライン上で空き状況を確認したり、フォームから予約したりできるようになり、業務を効率化することができました。
kViewerの会議室予約状況カレンダーを表示することで空き状況を確認できます。
他にも、従来は紙で実施していた研修アンケートをオンライン化した事例があります。
フォームブリッジで作成したフォームのQRコードをスマートフォンなどで読み取って回答してもらうようにしたのですが、MyページURLの機能を使うことで、講義が終わる都度回答を送信でき、同じ受講者の回答が一つのレコード内に格納されるよう工夫をしたそうです。
従来は、研修1回分のアンケートだけでファイル1冊分のボリュームになってしまっていたので、ペーパーレス化できたことも大きなメリットと言えます。
「kintoneでは、フォームブリッジから回答されたアンケート結果から、統計を取ったり、グラフ化できるようになりました。Excelで管理していた頃とは格段にできる幅が広がりました」(島村氏)
最後に今後の展望についてお伺いしました。
「今年度は研修動画を作ったり、ワークショップの相談会を実施して、当課に相談しなくてもkintoneアプリを作れるということを理解してもらいたいと思っています。その上で、ユーザー同士が、この業務にはこれが使えるよ、とお互いにアドバイスしあえるようなところを目指していきます」(島村氏)
「業務の効率化は、デジタル改革課のようなシステム部門がいくら一生懸命声高に叫んでも、事業を行うそれぞれの所管課が自分事として取り組まないと進みません。今後も、過去なかった課題が突然出てくることもありますし、その際にいきなり職員数が増えることもありません。それぞれの課の職員が、自分のため、そして自分の周りのために、改善することが重要です。そのためにkintoneとトヨクモ製品は有用なツールです。今後、庁内により広めていけたらいいなと思っています」と近藤氏は締めてくれました。
記事公開日:2023年11月6日
※事例記事の内容や所属は取材当時のものとなります