kintoneとプリントクリエイターの活用で、1日2時間の残業時間を削減、医療とITの橋渡しを実現した
猪原[ 食べる ]総合歯科 医療クリニック 様
猪原[ 食べる ]総合歯科 医療クリニック(以下、猪原歯科)は広島県福山市にある歯医者で、外来診療や訪問診療に加え、「患者さんに新しい価値観に気づいてもらい、行動変容につなげる」という理念の元、患者さんが最期までお口から食べることを支援しているのが特徴です。
猪原歯科では訪問診療を行っているのですが、現場でも歯科医院でも書類の作成、出力作業が発生しており、スタッフの大きな負担になっていました。そこで、2016年にkintoneを導入し、業務のIT化を進めました。
今回は、訪問診療で、複数の書類を作成する事務作業に疲弊していたスタッフの負担を軽減すべく、kintone×プリントクリエイターを導入した経緯と効果について猪原[ 食べる ]総合歯科 医療クリニック 医療情報・広報部 前田浩幸氏にお話を伺いました。
猪原[ 食べる ]総合歯科 医療クリニック 医療情報・広報部 前田浩幸氏
猪原歯科は1946年に開業した歴史のある歯科医院です。2011年に留学から帰国した現理事長(当時、副院長)である猪原健氏は、「患者さんの歯が痛くなって来院し、治して終わって、また痛くなったら来てね」といった一般的な歯医者のようなことをしたくはなかったそうです。
むし歯や歯周病を予防するために定期的に歯科にかかってもらい、人生の最後まで口から美味しく食べられるような歯科医院を実現するためには、IT化は絶対に必要だと課題を感じていたそうです。そこで伝手を頼り、愛媛県にある医療法人「ゆうの森」を見学に行ったそうです。
猪原歯科にはなんと調理法をレクチャーするためのキッチンがあります。
「ゆうの森」ではすでに在宅医療や地域医療の業務改善にkintoneを活用していたのです。2019年に開催された「kintone hive matsuyama vol.1」にも登壇されており、在宅医療の業界では有名な医院です。
kintoneの活用現場を目の当たりにした猪原健氏は、「kintoneはなんて素晴らしいんだ。しかし、自分が診療しながら片手間で導入・活用するのは難しい」と感じたそうです。そこで、IT専門の人材を探し始め、東京医療保健大学で前田氏が所属していた研究室に話が来たのです。当時、前田氏はまだ学生であり、東京育ちで広島とは縁もゆかりもないため保留にしたそうです。しかし、その後大学院に進みながら、何度かインターンで猪原歯科に通ううちに就職を決心し、2016年4月に猪原歯科に就職することになりました。
「医療とITという2つの専門領域の間には深い谷があり、この間を繋ぐ人間が必要です。僕は医療情報技師として、その橋渡しをしています」(前田氏)
半年近く様々な現場を回って経験を積み、実際に働いてる人たちの話を聞いてどんなシステムが必要なのかを分析したところ、最も課題を抱えていたのが、訪問診療部だということがわかりました。患者の自宅へ訪問し、実際に検査や治療を行い、最後にその日にどんな治療や検査をしたのかを手書きで記載した「連絡箋」というお手紙をお渡ししていたそうです。
猪原歯科では外来に来られない患者のために訪問診療サービスを提供しています。
訪問診療の際に患者に渡す「連絡箋」です。システム導入前は複写紙を使用し手書きで対応していました。
訪問診療の患者は要介護の方が多いので、介護保険を使うためには、1度訪問するごとにケアマネージャー宛に診療内容を報告する必要があるのです。広島県では、その報告方法がFAXで行うと定められているそうです。そのため訪問先から医院に帰ってきてから、残業して診療内容の報告とFAXの作業を行っていたそうです。紙での運用はITリテラシー不要で書くことができますが、大切な患者情報を紛失するリスクがありました。
その後、Microsoftのデジタルノートアプリ「OneNote」を導入しました。訪問先で「OneNote」を起動し、患者の情報を入力します。そして、Wordで印刷用のフォーマットを開き、情報をコピー&ペーストして書式化し、その場で印刷して「連絡箋」を渡すようにしたのです。
「OneNote」の導入で、管理は楽になりましたが、現場スタッフの負担が問題でした。午後5時ごろに訪問診療から帰ってきて、再度「OneNote」を開き、ケアマネジャー宛に送る様式のWordファイルにコピー&ペーストして、Excelで送付状も作成し、印刷後にFAXで送付していました。そのため、毎日2時間近く残業が発生していたそうです。
「診療してきた後に事務作業をするのですから辛いですよね。事務作業も含め歯科衛生士さんが担当していたのですが、当院に30年間勤務されてきた優秀な歯科衛生士さんも、見様見真似でPCを使うようになったのです。診療以外の慣れないPC業務で疲弊しきっており、このままではいけないと感じていました」(前田氏)
経営陣からしても、残業時間が増えれば人件費の負担も大きくなります。現場からも辛いという声があがり、退職リスクも高まります。そこで前田氏は、この問題点から着手することにしました。
課題が明確なので取りかかりやすいうえ、現場から改善を求められているのでスムーズに導入まで進みました。すでにニーズがあるから、前田氏もチームとして入ることができ、利用するデータベースソリューションも広く再検討しましたが、それでもkintoneに軍配が上がり、kintoneの導入に至ったそうです。
kintoneに入力するだけで各種帳票を手軽に出力できるようにした
同じ内容を複数のソフトウェアに転記を繰り返すことで、時間がかかっていたためkintoneに情報を集約することにしました。まずはマスターが必要になるので、「カルテ」アプリを作成しました。そして患者番号で情報を呼び出して、現場の状況を記録して申し送りするための「カルテ記載と申し送り」アプリを作成しました。
この2つのアプリを紐付け、治療した内容をkintone上でPDF出力し、印刷したりFAX送信したりする狙いがありました。そこで、まず前田氏はkintoneのデータを帳票出力可能なサービスを比較検討したそうです。
「2016年に検討した際には3つくらいしか選択肢がありませんでした。しかも、どこもホームページを見ただけでは実際の動きがわからなかったので、kintone関連のサービスが集まる展示会に行き、それぞれの製品を見て回りました。我々は、kintoneのフィールドを帳票上にマッピングしたかったので、それができればよかったのです。求めていない機能があっても仕方がないので、その辺りと価格帯がピタッとフィットしたのがトヨクモのプリントクリエイターでした」(前田氏)
そうして2016年8月にプリントクリエイターを導入し、「連絡箋」を出力できるようにしたのです。訪問診療の際に、kintoneに入力してkintoneから出力できるようにしたので、OneNoteに記入してWordから印刷するという手間が省けたそうです。
そして、「連絡箋」を印刷して渡すのと同時に、kintoneのFAX送信連携サービスを利用して、kintoneからケアマネジャーにFAX送信するようにしました。もちろん、「プリントクリエイター」で様式に合わせたPDFを出力されています。
「院内用の申し送りを作るのと同時に、患者さんに印刷してお渡しし、連携する外部の人にも送信できるようになりました。そのため、医院に帰ってからの作業から開放されたのです。現場の人たちの心理的にも体力的にも負担で、経営的にも無駄だった作業がカットできました」(前田氏)
プリントクリエイターの設定面で工夫した点は、次回の訪問予定日の表示方法です。訪問診療では、色々なパターンがあるので、単純に1種類のフィールドを用意するだけでは対応できません。時間に余裕のある方は、定期的な予定を組んでもらえます。病院への通院が多い方やデイサービスの関係で治療できる時間が限られる方は毎回電話で相談しなければいけません。訪問時間も幅を持たせられるケースもありますし、日時を指定していかなければならないケースもあります。
そこで前田氏は、プリントクリエイターの「次回訪問予定日」のところに、4つのフィールドを重ねてレイアウトを配置したのです。4つのうち1つのフィールドにのみ登録を行う運用をしているため、入力がないフィールドは何も印刷されず、データが入っているフィールドのみ印刷され、柔軟な予定日の記載をできるようにしました。
「カルテ記載と申し送り」アプリから簡単に出力ができるようになりました。
kintoneから、プリントクリエイターで出力した「連絡箋」です。
物販の納品書や領収書から院内の情報共有書類をプリントクリエイターで出力
「カルテ」アプリと「カルテ記載と申し送り」アプリの運用に成功し、前田氏は次々と他のアプリでも「プリントクリエイター」を活用し始めました。
「帳票は綺麗な見やすい形に表示させる役割もあると思っています。例えば、訪問診療の患者さんが抜歯する際など、安全を確保するために設備の整った医院で治療する必要があるため、一時的に外来に来院されるケースがあります。その際には院内の歯科医師や歯科衛生士に対して申し送りが必要になるのです。その際にkintoneのレコード画面は見づらいと言われるので、プリントクリエイターで連携シートという帳票を作りました」(前田氏)
上から順番に必要な情報をスムーズに読めるような連携シートを作り、プロジェクターで映して毎週みんなで情報共有しているそうです。
院内の申し送りの様子です。共有しやすいようプリントクリエイターで作成した連携シートを映しています。
プリントクリエイターで作成した連携シートです。
猪原歯科は予防という観点から、歯ブラシや歯磨き粉、歯間ブラシなどを販売しているそうです。訪問診療でも外来診療でもよく売れており、この管理もkintoneで行っています。
訪問診療ではひと月分まとめて請求するので、まずは納品書だけを渡しているそうです。患者番号で購入商品を紐付け、「プリントクリエイター」で納品書を作り、真ん中でカットできる用紙に印刷しています。片方は患者に渡し、片方は医院で控えるためです。患者から以前購入した製品が欲しいと言われた場合でも、kintone上に登録した過去の販売記録から、すぐに正確な製品名を調べることができます。
外来診療部の会計でもプリントクリエイターを使用しています。kintoneで商品マスターを作り、在庫数も管理しているとのことです。消費税の8%と10%の違いなどもきちんと管理し、プリントクリエイターで領収書を発行しています。
プリントクリエイターで出力した、外来診療で発行する領収書です
歯科医院のワークフローでは最終的に紙で出力することが多いそうです。業務フローの途中で紙が存在すると、データの所在がわからなくなったり、紙を回す手間が発生するので、その間はデータで流し、その終着点のところでプリントクリエイターを活用されているとのことでした。
歯科医院の様々な業務において、情報共有する際に見やすくするといった活用から、実際のレジで領収書や納品書を発行しているなど、プリントクリエイターをフル活用されていました。
最後に今後の展望についてお伺いしました。
「今後プリントクリエイターで処方箋も発行できたらいいなと考えています。あとはまだワークフローも含めて整備しきれていないところがあるので、そこの帳票出力をプリントクリエイターを活用して、kintone化していこうと思っています」と前田氏は締めてくれました。
猪原[ 食べる ]総合歯科 医療クリニック:https://inohara-dental.net/
記事公開日:2023年9月22日
※事例記事の内容や所属は取材当時のものとなります