kintone連携サービスの利用で、GoToトラベルキャンペーンの申請から返金手続きまでの自動化に成功した星野リゾート
星野リゾートは今年で107年目を迎える老舗で、国内外で51の施設を展開するリゾート・ホテル・旅館の運営会社です。独創的なテーマが紡ぐ圧倒的非日常「星のや」、ご当地の魅力を発信する温泉旅館「界」、自然を体験するリゾート「リゾナーレ」、テンションを上げる都市観光ホテル「OMO(おも)」、ルーズなカフェホテル「BEB(ベブ)」の5ブランドを中心に展開しており、星野リゾート代表の星野佳路氏も経営者として頻繁にテレビや新聞に登場しています。
2020年、新型コロナウイルスの影響で海外からの旅行者が激減。国内の旅行も大幅に縮小しました。もちろん、星野リゾートも打撃を受けています。しかし、星野氏が旗を振り、生き残るための施策を次々と打っています。締められる支出は締めたうえで業務効率を高め、政府の施策に柔軟に対応しようとしているのです。
今回は、限られた開発リソースの中で、kintoneとトヨクモ製品を活用して、GoToトラベルキャンペーン施策に対応した経緯について、情報システムグループの滋野拳氏と小竹潤子氏に伺いました。
情報システムグループの小竹潤子氏と滋野拳氏にお話を伺いました。
カスタマイズとAPI連携を活用して800アプリを100のワークフローで活用
星野リゾートがkintoneを導入したのは2014年です。当時、同じくサイボウズの「デヂエ」を使っていましたが、他のツールと連携ができなかったり、カスタマイズ性がないので別のツールを探していました。
kintoneも2011年にリリースしていますが、初期の頃は連携やカスタマイズができなかったのです。しかし、2013年のアップデートにより、kintoneでJavaScriptのカスタマイズやAPI連携ができるようになり、導入しました。
「当時は社内からの情報システムグループへの要求があまりにも多すぎたため、クリティカルなシステムにしか対応できませんでした。そこで、現場で使用するものはローコードプラットフォームでスタッフ自らが作って欲しいと考えていたのです。そこで、ドラッグ&ドロップで直感的に操作できるkintoneを導入しました。ちなみにkintoneを入れることを社内へ説得するためにグループウェアと言い切って導入しております笑」(滋野氏)
現場だけでなく、決済システムなど基幹系のシステムにもkintoneを活用し、kintoneのユーザーイベント「kintone hive tokyo」にも登壇しています。現在では、全社で利用する100近いワークフローの他にも多くの用途で利用しており、開発したアプリは約800にもなります。
以前から、購買部門では納品書などの印刷に「プリントクリエイター」、総務部門では車両保険や経費の管理に「フォームブリッジ」を使っていたのですが、限定的な使用にとどまっていて、グループ全体での導入には至っていませんでした。その潮目が変わったのは、2020年のGoToトラベルキャンペーンが実施された時です。
GoToトラベルキャンペーンから東京都が突然除外され、kintoneアプリを急遽構築して対応した
2020年4月、政府は「GoToトラベル」キャンペーンを発表しました。宿泊代の割引きや、飲食などに使えるクーポン券が利用でき、新型コロナウイルスの影響が大きい観光関連産業を支援する狙いです。
7月10日に、7月22日から「GoToトラベル」キャンペーンを実施すると発表され、大きな割引きが受けられるということで、多数の人が予約しました。しかし新型コロナウイルスの広がりを受け、7月17日に突然東京都の除外を発表したのです。東京都の人たちが7月10日から17日の間に予約した場合はキャンセルせざるを得ず、キャンセル料は政府が補償することになりました。
各施設の予約窓口には、すでに新型コロナウイルス関連の問い合わせ増により通常の2~3倍の問い合わせが入っておりパンク状態になっています。東京都の対象除外に関する問い合わせを電話で受けきる余裕はありません。
小規模な旅館であれば、予約台帳を見て電話などで対応できますが、星野リゾートのような規模ではシステムで対応する必要があります。しかし、システム部門の開発チームはGoToトラベルキャンペーン対応の予約システムを開発しており、キャンセル料免除の追加要件に数日で対応する余裕もありませんでした。
「試しにkintoneと「フォームブリッジ」を調べてみたところ、キャンセル料の返還アプリを作れそうだ、ということが分かりました。kintoneが使えるなら、エンジニアでなくても1~2日でウェブフォームを作成できます。そこで、7月27日にトヨクモの各サービスにトライアルを申し込み、8月1日に有償導入してお客様へのご案内を開始できました」(滋野氏)
この短期間でお金が絡む重要なシステムを稼働できた理由は2つあると、滋野氏は語ります。1つ目が、予約システムを開発していたのでキャンセルに必要な情報の要件がまとまっていたということ。2つ目が、kintoneや「フォームブリッジ」などトヨクモ製品の管理画面が使いやすかったから、とのことです。
kintoneと「フォームブリッジ」を組み合わせることで、予約窓口に負荷をかけずに東京除外のキャンセル申し込みを受け付けることができました。
キャンセル料金の返還手続きアプリを作りました。
顧客が利用する画面です。迷わず操作できるように丁寧な説明が記載されています。
続けて、8月17日には自社でのGoToトラベルキャンペーンプランを販売しました。同時に、すでに予約をしている顧客に対しては、GoToトラベルキャンペーンを適用させる必要があります。
星野リゾートのウェブサイトから予約した場合は、キャンペーンを適用する機能が実装されていましたが、電話予約した方のための窓口は用意されていません。このままでは、予約窓口に電話が殺到することになると予想されました。
そこで、既存予約へのキャンペーン適用申請も、kintoneと「フォームブリッジ」を組み合わせて対応することにしました。「フォームブリッジ」で予約日などの情報を入力してもらい、問題がなければ、キャンペーンを適用します。その際、「kMailer」を利用して顧客に適用した旨の通知を送信し、自動でkintoneのレコードを変更するようにして手間を省きました。
その結果、約7000件の申し込みを受け付けることができました。予約窓口へ7000件の電話がかかるところ、さくっとkintoneとトヨクモ製品を組み合わせることで対応したのです。
「自社予約は原則クレジットカード支払いで受けてつけているのですが、一部のカード返金でエラーが発生します。その場合、「kViewer」のMyページ機能を利用し、返金先の口座情報を伺うことで、一連のフローがトヨクモ製品+kintoneの機能で完結するようにしました。想像以上にトヨクモ製品がかゆい所に手が届いたため、次々と変わるGoToトラベルキャンペーンの要件に合わせてトラブルなく対応できました」(小竹氏)
GoToトラベルキャンペーンの適用申請アプリです。
「kMailer」で顧客へメールを送信したあと、レコードを変更するようにしました。
ESアンケートや経費精算、プレゼント企画までフォームブリッジの社内活用が進む
「フォームブリッジ」を使いこなせるようになったので、最近では社内で使用するウェブフォームを、次々と「フォームブリッジ」で作るようになったそうです。
これまで社内のESアンケートは独自サーバーで運用していたのですが、エンジニアしかメンテナンスできず課題になっていました。そこで、kintoneと「フォームブリッジ」で置き換えることで、非エンジニアでもメンテナンスできるようになりました。
星野リゾートでは経費申請もkintoneで行っています。しかし、入社前の新入社員はkintoneアカウントをまだ持っておらず、経費処理に手間がかかっていました。入社前でも、家を下見しに行ったり、家賃の補助や研修の交通費などの経費が発生するそうです。
「僕らが入社した頃は紙に書いて、領収書を貼って提出していた作業を、今では事前に「フォームブリッジ」を使って申請いただいて、総務部門と人事部門がkintoneから閲覧して、対応するようにしました」(滋野氏)
新入社員の経費精算アプリは、大きな業務改善でバックオフィス部門の課題解決となったそうです。
2020年11月、星野代表がSNSで「3密回避Tシャツ」のプレゼントキャンペーンを行いました。この時の応募フォームもkintoneと「フォームブリッジ」で作成しました。応募フォームを非エンジニアが簡単に作成できたのでスピーディーに対応でき、Tシャツの送付先情報もkintoneからCSVファイルに書き出して、送付までのフローを対応したそうです。
社内の他の業務にもkintone+「フォームブリッジ」の活用が広がっています。
GoToトラベルキャンペーンが再開したら、今回作った仕組みを活用する予定だそうです。
「kintoneとトヨクモ製品はGoToトラベルキャンペーンを乗り越えるのに大きく貢献してくれました。最後は返金機能までkintone連携で作ることもでき、いまではないと困るほどのプラットフォームの一つになりました」(小竹氏)
「今後の展望は類似プラグインの撲滅です。トヨクモ製品は製品ごとにフォームの登録からメール対応、Myページ機能、印刷までできる連携機能をとても評価しています。色々なプラグインをお試しで入れてきましたが、似たような機能のプラグインはトヨクモ製品に寄せていきたいと考えています」(滋野氏)
わずか一ヶ月で予約システムを構築 ノーコードでスピーディーに自動化を実現
星野リゾートでは、新たにデータコレクトを導入し、フォームブリッジ、kViewerと連携した活用方法で、予約システムの構築を行い更なる業務削減に成功されたと伺い、2021年12月23日に改めて取材を行いました。
「軽井沢ホテルブレストンコートが手掛けるウェディングドレスブランド『tveir(トゥヴェイル)』の新規店舗をオープンするにあたり、急遽webで試着予約を取れる仕組みが必要になりました。」
元々ホテルで使用していた別の予約システムでは、試着予約において求めていた要件に合わず、新たにシステムを探すか、自ら構築する必要があったと語る滋野氏。
「予約システムが欲しいという相談が来たのもギリギリで、期間としてはわずか一ヶ月ほどというくくりがありました。そのため、ゼロからシステムを構築しているような余裕はない状況でした。」
その際、kintone連携製品のフォームブリッジ×kViewer×データコレクトを活用して予約システムを作っているトヨクモのブログ記事を見つけ、これならスピーディーに構築できそうだな、と思い導入を検討し始めたといいます。
「無料お試しの期間中に、ブログを参考にしながらシステムを構築して試してみたところ、問題なく運用できそうだったので、そのままチーム内で提案してデータコレクトの導入に至りました。元々、フォームブリッジとkViewerは使用していたので、費用的にも1製品の新規導入だけで完結したのは良かったですね。
予約システムが必要だという依頼があってから選定、構築、さらには実運用開始までを一ヶ月という短い期間でスムーズに実現することができました。」
もし、店舗オープンに間に合わなかった場合は費用をかけて別の予約システムを導入するか、電話での受付のみという対応になっていたかもしれないそうです。
「予約枠の残数管理をどうするかが課題だったので、データコレクトを導入して残りの予約枠を店舗スタッフ・お客様の双方がリアルタイムに把握できるシステムを作れたのは、導入を決断する上での決め手になりました。
システムを構築できたことで、店舗スタッフの負担の軽減と予約獲得率の向上という2つの導入効果を得られたと考えています。やはりwebからの予約は電話よりもハードルが下がりますし、webだからこそ獲得できた層は確実にいると思います。」
店舗スタッフが「日程管理アプリ」にレコード(予約枠)を追加すると、kViewerのカレンダービューに自動で予約可能日時が反映されるシステムとなっており、実際にスタッフが行う作業としてはレコードの作成のみとシンプルかつ簡単だったため、運用を開始する際もスムーズに浸透したといいます。
店舗スタッフが日程管理アプリに試着の予約枠を追加する
「運用開始から少し経って、店舗スタッフから再来店されたお客様には1回目と同じ者で対応したいという声が上がってきたので、今後お客様情報と紐付けて管理できるよう対応することを検討しています。」
kintoneとの連携機能だからこそ、要望に併せた機能改善も継続的に行っていくことができるといいます。
最後に、今後どのようにデータコレクトを活用していきたいか伺いました。
「今回、エンジニアに依頼せずとも私たちがノーコードで構築できたというのは大きくて、運用している中で出てきた要望やフィードバックに対しても柔軟に対応できるので予算的にも工数的にも助かっています。新規での構築に加えて、今使っている予約システムから切り替えていくことも検討中です。」(滋野氏)
「今のところは、予約システムのみでの活用に留まっています。社内で使用している様々なシステムに対して、自動更新や即時性の要望が増えている状況ですので、今後はより広範囲にわたって活用していきたいと考えています。」(小竹氏)
以前からkintoneを使いこなしていた星野リゾートですが、トヨクモ製品を組み合わせて利用することで、スピーディーなアプリ開発を実現しました。人が足りない、予算がない、と悩んでいる中小企業の方にも大いに参考になる事例となりました。