結婚式場のアンケートやイベント予約システムをkintoneで構築した八芳園から学ぶDXの進め方とは
株式会社八芳園は1943年に創業した結婚式場です。東京都港区白金台に広がる約1万坪の日本庭園にあり、現在はウェディング事業を中心に、宴会やレストラン事業、イベントプロデュース事業などを手がけています。2021年には事業を「総合プロデュース事業」へ進化させました。
kintoneの導入は2020年4月。オンプレミスのシステムのサポートが切れるタイミングで、コロナ禍ということもあり、クラウドのシステムに移行することになりました。そこで導入したのがkintoneです。
トヨクモの「フォームブリッジ」や「kViewer」「kMailer」「プリントクリエイター」を駆使して、従来のシステムでできていたことを引き継ぎつつも、回答率の低いアンケートや手間のかかるイベント予約といった課題を解決しました。
今回は、システムのクラウド化と社内DXを実現した経緯について、株式会社八芳園 DX推進部ITソリューションチーム 豊岡若菜氏にお話を伺いました。
株式会社八芳園 DX推進部ITソリューションチーム 豊岡若菜氏。
自分たちで課題を解決できるようにkintoneを導入した
以前の八芳園ではオンプレミスのシステムを利用していたので、リモートワークをする際に、社内システムに接続することができませんでした。結婚式場では基本的に顧客もスタッフも式場に集って打ち合わせをするので、あまりリモートワークのニーズはなかったそうです。しかし、コロナ禍になり状況が変わりました。
結婚式場はコロナ禍の影響をダイレクトに受け、一時期は営業がストップしたこともあり、一気にリモートワークに移行することになりました。ちょうどオンプレミスのシステムもサポートが切れたり、OSのアップデートができなくなるタイミングだったので、クラウド化を推進することになったそうです。
kintoneは付き合いのあるコンサルタントから紹介されたそうです。八芳園の業務をよく知っていたので、既存のパッケージソフトなどでは対応できないことがわかっていました。八芳園はフットワーク軽く新規事業を手がけることが多いためです。
「新しい事業を始めるときにシステムが使えないと、結局みんなExcelを使い始めてしまいます。kintoneなら自分たちでシステムを改善できるので、弊社にフィットすると感じました」(豊岡氏)
コンサルタントから勧められたのはkintone一択だったのですが、ブライダル業界特化のシステムもいくつかあるので、いろいろと比較検討したそうです。しかし、最終的にkintoneに決めたのは、やはり自分たちで自在に対応できるという点でした。
本格的にkintoneでシステムを構築するにあたり、kintoneのシステム開発サービスを提供している株式会社ジョイゾーに支援してもらったそうです。ジョイゾーは定額制対面開発サービス「システム39」などを提供している、kintone業界ではとても定評のある開発会社です。
フォームブリッジ×kViewer×kMailerでアンケートの回答率を大幅アップ
ジョイゾーによる支援のもと、出社する社員の体調管理記録を取るためのアプリを皮切りに、業務に必要なアプリを次々に開発していきました。その際、Webフォームでアンケートを取りたいとか、帳票出力をしたいと要望を出したところ、kintoneの標準機能だけでは対応できないので、トヨクモ製品を紹介してもらったそうです。
「フォームブリッジ や プリントクリエイター を導入して、使ってみました。ジョイゾーさんの見よう見まねでやったのですが、意外と簡単にできるんだな、という印象を受けました」(豊岡氏)
まず取り組んだのがアンケートです。以前は、アンケートひとつ取るのにもとても手間がかかっていました。結婚式を挙げる顧客の場合、見学時と成約時、挙式後の3回アンケートを取ります。その際、対面で紙のアンケート用紙を渡し、手渡しもしくは郵送で回収していたのです。顧客側の手間もかかるので、回答率が低いという課題がありました。
紙で集められたアンケートはスキャンしてデータ化はするものの、よほど大きなクレームでもない限りは単に保管されるだけで、利活用にはつながっていなかったそうです。
そこで、フォームブリッジを使ってアンケートに回答してもらうようにしました。初回の予約が入った時点で、kMailerでアンケートフォームを送り、どんな結婚式にしたいのか、といった情報を事前に収集します。顧客が望む結婚式が得意なプランナーに担当させるという戦略を立てられるようになり、現場からもいい効果が出ているという声が寄せられているそうです。もちろん、課題だった回答率も格段に向上しました。
初回の申し込みがあった時点で、事前アンケートを送れるようになりました。
「今は、アンケートで評価が良かったプランナーとか、どんな流入経路が効果的か、どんなところがお客様に響いたのか、などをBIツールに連動させています。可視化することで、部署内で情報を共有し、業務改善を重ねています」(豊岡氏)
結婚式の場合は新郎と新婦にアンケートを送るのですが、それぞれに送ると情報が重複したり分散してしまいます。片方にだけ送ると、2人で回答してくれるのかわかりません。そこで、kViewerを利用し、新郎と新婦のお互いが書いた内容を表示し、必要に応じて追記できるようにしたのです。結婚式ならではの活用法ですね。
アンケートは新郎と新婦のどちらでも編集できるようになっています。
アンケートの回答は任意ですが、成約時のアンケートでは新郎、新婦や両親の住所や連絡先といった契約者情報を入力してもらう必要があります。kMailerでフォームブリッジのアンケートURLを送信し、7日以内に返答がない場合はリマインドメールを送信します。
しかし、リマインドメールの自動送信だけは、kintone内だけで実現できなかったので、RPA(Robotic Process Automation)サービスを併用しています。RPAでkintoneアプリ内の送信後8日経過した顧客のレコードを開き、回答日フィールドをチェックして、空欄であればkMailerで送信させているそうです。
「データがkintoneに自動で入ってくるので、大きな業務の削減になりました。以前のように手入力していると、住所などを打ち間違えることもありましたが、そういうミスがなくなったのはとても便利です」(豊岡氏)
kViewer×フォームブリッジで決済機能付きイベント予約システムを構築
八芳園では餅つきや花見、夏祭りなど、年に数回のイベントを開催しています。以前は、この予約を電話で受け付けていたそうです。顧客から問い合わせが来たら、受付けた人は担当営業に連絡して予約の確認を行い、顧客に回答するという流れです。手間もかかりますし、顧客を待たせてしまうこともネックでした。
情報はイベントごとにExcelで予約を管理しており、担当者しか状況を把握できません。支払いもイベント当日、会場でのみ決済できるという状況でした。
このイベント予約と決済をkintone化することになりました。まずは、イベントの情報を登録するマスターアプリを作成し、開催日時や定員、料金などを入力します。続いてkViewerでカレンダービューを作り、開催中のイベントだけを表示させ顧客に選んでもらいます。詳細情報が表示されるので、参加したい人は詳細画面の「申し込みはこちら」のリンクをクリックし、フォームブリッジの画面に遷移します。
kViewerの画面からイベント詳細を確認し、フォームブリッジの申し込み画面に誘導しています。
「例えば、定員10名の場合、2名で予約すると空き枠が8枠になります。空き枠がないのに予約を受け付けてしまわないように、リアルタイムに空き枠をチェックできるようジョイゾーさんにお願いしてカスタマイズを入れています」(豊岡氏)
さらに、フォームブリッジと「Omise」という開発者向けの決済サービスを連携させ、事前支払いができるようにしました。クレジットカード情報を入力してもらい、決済の認証が通ったら、予約を確定し、空き枠を減らす処理を実行します。このおかげで、イベント現場で支払いを受ける業務負担を軽減することができました。
現場スタッフのポケットに忍ばせる1枚の紙に関連情報を集約させる
結婚式に関する情報は様々なアプリに分散していますが、1画面で見られるようなアプリも用意しました。データを入力する人やプランナーなどはこの画面を利用しているのですが、結婚式の現場では使われていないそうです。
「結婚式場のような業界だからかもしれないのですが、会場ではいろいろなスタッフが関わってきます。その人達に、kintoneにログインしてもらい、色々なアプリを見てもらうのは困難です。そもそも現場の人たちは、新郎、新婦や料理の内容をはじめ、必要な情報がすべてまとまった1枚の用紙をポケットに忍ばせて、仕事をしています。それならばとプリントクリエイターでその紙をプリントできるようにしたのです」(豊岡氏)
他にも、請求書や予約確認書、宛名シールなどの印刷にもプリントクリエイターが活躍しているそうです。ブライダルの請求書を郵送する際、封筒に貼るラベルシールを印刷するのですが、従来はSQLコマンドを叩いてデータベースから情報を抽出し、Excelのフォーマットにペーストして印刷していました。現在は、kintoneアプリ上から1クリックで出力できるようになっています。
kintone内のデータをプリントクリエイターで直接印刷するのでExcelへの転記ミスなどがなくなりました。
kintone導入の経験を活かして伴走型DX支援事業も開始
ブライダル関連の様々な業務をkintoneアプリ化し、オンプレミスのシステムからの乗り換えとクラウド化を実現。業務効率を大きく改善し、Excelからの脱却も果たしました。現場では無理にデジタル化せず、紙での運用も残しているのが、長くブライダル業界で人気を集めている八芳園ならではというところでしょうか。
実は、八芳園は昨年の10月から、今回kintoneを導入した経験を活かし、他社のkintone運用をサポートする事業を行っています。結婚式場だけでなく、まったく関係のない領域の企業からも依頼が来ているそうです。
2022年6月には、今回kintoneの導入支援をしてもらったジョイゾーと提携し、ブライダル業界のDXに特化した営業支援プラットフォーム「IRERO ~indicate real road~」の提供を開始しました。新規事業を積極的に手がけるのは伺っていましたが、早速kintoneを使った業界のDX支援事業をスタートするとは流石です。
最後に、今後の展望を伺いました。
「ブライダル関係の部署では、プリントクリエイターやフォームブリッジ、kViewer、kMailerを使って、kintoneにデータを登録したり、そのデータで何かするということはだいぶできるようになりました。今後は、宴会を管理している部署や空間デザインを手がける事業部などでもkintoneを活用できるようにしていきたいです」と豊岡氏は締めてくれました。