kintoneとフォームブリッジ+kViewerで763時間の時短とペーパーレス化を実現した三島市役所
三島市役所 様
静岡県三島市の教育委員会はkintoneを採用して、市内公立小中学校全21校の全教員にアカウントを配布し、教育委員会と学校間の業務に活用しています。2023年5月にプレスリリースが三島市とサイボウズ社から発表され、大きな注目を集めました。
kintoneの導入は、経済産業省が実施する令和3年度の「未来の教室」実証事業において、静岡県三島市中郷西中学校が実証校の一つに選ばれたことがきっかけでした。「未来の教室」は、学校BPR(Business Process Re-engineering、学校の働き方改革)を目指すプロジェクトです。
学校施設の修繕依頼登録の作業時間を全体で約244時間削減したり、年間1万枚ものペーパーレス化を達成するなど大きな導入効果を実現しています。今回は、kintoneとトヨクモ製品を導入することで、学校BPRを成功させた経緯について、三島市教育推進部 教育総務課 杉山慎太郎氏にお話を伺いました。
三島市教育推進部 教育総務課 杉山慎太郎氏。
「未来の教室」実証事業がきっかけでkintoneを導入した
三島市教育推進部 教育総務課では、学校施設や放課後児童クラブの管理、教育委員会の会議といった業務を手掛けています。杉山氏はその中で、ギガスクール推進室も兼ねており、教育DX全般を担当されています。
「三島市は学校のICT化が進んでおり、校務支援システムやグループウェア、健康観察アプリなどを導入しています。親御さんから、学校への連絡が楽になったとは聞いているのですが、実際には教員の働く時間は減っていませんでした。どうしたら、働き方改革を進めればいいのか、と悩んでいました」(杉山氏)
杉山氏は市の職員として教育委員会に出向してきており、前の部署にいたときから、市のDXを推進するためにはひとつひとつのシステムをITベンダーに委託して開発するのはコスト的に無理だと考えていました。そのため、ノーコード・ローコードツールである「kintone」をいつか導入したいと思っていたそうです。
そんな中、2021年7月に「未来の教室」の実証事業を三島市で行うことが決まり、11月ごろにサイボウズ社が教育委員会へのヒアリングを実施しました。サイボウズ社からの提案を聞いた杉山氏は「もうこれはやるしかない」と心を決めたそうです。
kintoneを活用するにあたり、現状どんな業務が行われているのかを把握する必要があります。しかし、当時はコロナ禍で気軽に学校へ行くことすら難しく、教頭先生の頭に小型カメラを装着し、1日働いてもらうという苦肉の策を講じたそうです。
「教員の仕事内容を綿密に調査したところ、教員の机の上の紙の量に驚かれ、まずは教育委員会と学校現場との間で行われる業務の改善が必要との提言を受けました」(杉山氏)
最初にkintoneで開発したのは、学校施設の修繕依頼アプリでした。従来は学校側がExcelで修繕依頼用シートを作成し、メールで教育委員会に送付していたそうです。学校内ではExcelを印刷し、校内用の決裁として保管していました。メールでやりとりすると見落としが起きる可能性があるうえ、進捗も把握できないという課題があったそうです。
アプリ開発は、約2週間ほどであっという間に完成したそうです。校長会議で、これからの修繕依頼は、紙ではなくkintoneで行うと教職員に伝えたところ、最初はみんな戸惑っていたとのことです。しかし、進捗管理ができ、修繕にかかった費用なども見える化したため、続々と好意的な反応が寄せられるようになりました。
保護者と学校の両者が負担に感じていた手書き書類をオンライン化した
三島市教育委員会では、kintoneのアカウントを、三島市内の全公立小中学校21校の教員に配布し、各学校の校務や業務に活用されるようになりました。修繕依頼アプリに続き、他の業務でもkintoneを活用するために、三島市では「業務の棚卸大会」を実施しました。その結果、現場の教員が業務改善して欲しい項目として、家庭環境調査票、各種問診票のデジタル化が取り上げられました。
毎年、年度当初に入学する子供がいる場合、家庭環境や連絡先といった家庭環境調査票や体調やアレルギーなどを記録する保健調査票、心臓検診や結核健康診断の問診票などを6枚記入してもらう必要があります。従来は、保護者が全て手書きしていたのですが、それぞれの紙に住所や名前など同じ内容を書く必要があります。杉山氏の元には保護者から、「なんとかならないか」といった相談が多く寄せられていたそうです。
学校側の作業も負担が大きかったそうです。受け取った紙の調査票を見ながら、校務支援システムに手動で転記する作業が発生していたためです。ここをkintone化することで、両者の負担を軽減することに成功しましたが、コスト面から保護者全員にkintoneアカウントを発行することはできません。
「そこで、トヨクモのフォームブリッジと、 kViewerを利用する提案を受けました。kintoneアカウントがない保護者の方でも入力してもらえると聞き、導入を決めました。その際、セキュリティもチェックしました。kintoneは政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)に登録されていますし、トヨクモも情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)規格ISO27001に適合している点も安心できました」(杉山氏)
以前はこのような書類をすべて保護者の方に手書きしてもらっていました。
入学説明会時に1枚の用紙を配布し、保護者に各種調査票のオンライン提出のお願いをしたそうです。保護者は、配布された用紙に記載のQRコードを読み取り、スマートフォンやPCから情報の登録ができるようになりました。
入学説明会で配布する用紙です。
QRコードを読み取ると、Toyokumo kintoneApp認証の画面に遷移する仕組みになっているそうです。メールアドレスを入力後、受信したメールのリンクにアクセスし、自身の情報の登録や確認を行うことができるようになります。認証のためのメールアドレスは、入学前に収集する「学齢児童届出書」に記載されたメールアドレスを活用されているそうです。
初回のみToyokumo kintoneApp認証でのログインを行います
Toyokumo kintoneApp認証画面からログインすると、保護者向けのページで各書類ごとの項目が表示され、入力する項目を選択し登録が可能です。
フォームブリッジのWebフォームから入力を行うことで、kintoneに自動的に情報が登録されるため、保護者と学校側の手間を大幅に省くことができたそうです。登録フォームには、kintoneで管理するマスタアプリから住所や名前を自動で入力されるので、重複入力する必要もありません。
「家庭環境調査票」アプリの画面です。
「心臓検診調査票」アプリ画面です。
オンライン上での書類の提出は初めての試みとなり、紙で提出したい人のために用紙も用意しておいたそうですが、紙を持って帰った保護者はほとんどいなかったそうです。
2つのシステムで763時間もの作業時間削減とペーパーレス化を実現した
実証期間をしっかり確保していたこともあり、kintoneとトヨクモ製品を導入した効果は大きいものでした。家庭環境調査票などをアプリ化したことで、新小学1年生804人、新中学1年生941人の書類、それぞれ6枚ずつのトータルで1万470枚のペーパーレス化を実現しました。
調査票を校務支援システムに転記する作業は、1人当たり約15分かかるので、1745人分で436時間もの削減になりました。帳票印刷にも1校当たり平均4時間かかっていたので、21校で84時間の時短になりました。
最初に作った修繕依頼アプリも、事務作業にかかる時間を削減できました。以前は修繕1件当たり15分くらいかかっており、令和4年度の依頼は975件だったので、243時間の削減効果が得られました。こちらも約1000枚のペーパーレス化も実現しています。また、抜け漏れなく修繕できたり、修繕履歴が把握できるなど、施設管理の質を向上することもできました。
「家庭環境調査票や問診票をkintoneとフォームブリッジで収集しているのは、教育委員会としては初めてだと思います。大きく報道されたので、議員さん達から視察のご連絡も多数いただいています」(杉山氏)
学校の現場も課題は感じているものの、なかなか紙の呪縛からは逃れられない、と杉山氏。どうやって導入するのだろう、結果が出なければどうしよう、といった不安な気持ちが先行し、新しいことに踏み切れない状況が続いていたそうです。現場にはkintoneを使いたいという先生もいるものの声を上げられないこともあるそうです。そこで、教育委員会が主導してDXを進めることで、状況を変えられると考えているとのことです。
また、小中学校以外では、放課後児童クラブの管理でも、今後はkintoneとトヨクモ製品の活用を検討しています。現在、放課後児童クラブの入会も紙で受け付けています。
「放課後児童クラブは4~5年ぐらい利用するので、毎年申請するのは手間がかかります。こちらもオンラインで提出できる仕組みを構築し、保護者の負担を軽減したいですね。勤務先の証明書を添付するのですが、それも画像を添付すれば対応できます。kintoneと連携して、このようなアプリを簡単に作れるのが、フォームブリッジとkViewerのいいところだと思います」(杉山氏)
最後に今後の展望についてお伺いしました。
「kintoneやフォームブリッジ、kViewerを、それぞれの学校の現場が自分たちの業務の改善に活用する風土にしていきたいなと思っています。学校の先生はとても忙しいので、課題や業務改善をヒアリングし、今後もこれらの製品を活用していきたいと考えています」と杉山氏は締めてくれました。
記事公開日:2023年12月6日
※事例記事の内容や所属は取材当時のものとなります