神戸市役所がkintone x フォームブリッジの導入で電話問い合わせを大幅削減、残業時間を100時間以上削減できた
神戸市役所様
神戸市役所(以下、神戸市と記載)は、日本でも最もIT産業に注力している自治体のひとつです。2020年7月には内閣府のスタートアップ・エコシステムグローバル拠点都市に選定され、グローバルなイノベーション創出を推進しています。そんな神戸市ですが、以前はアナログな紙の業務がメインで業務効率がなかなか上がりませんでした。しかし、2019年にkintoneを導入することで、変化が起きました。神戸市内の建設事務所の1つである西部建設事務所で働いていた藤原慎之輔氏が興味本位からkintoneアカウントを手に入れ、次々と業務を改善するアプリを開発したのです。
年間5000枚もの運転日報をペーパーレス化し、公用車の管理台帳や車検証のコピーもデジタル化。異動後も国勢調査の問い合わせをフォームブリッジで受け付けることで、1万3000件もの電話問い合わせを削減。残業時間をなんと1人あたり平均100時間も削減するという導入効果を実現しました。
市役所というお堅いイメージのある組織の中で、どのようにしてインパクトの大きい業務改善を実現したのか、現在は神戸市西区役所まちづくり課で主に選挙や統計調査を担当している藤原慎之輔氏にお話を伺いました。
神戸市役所 西区まちづくり課の藤原慎之輔氏
年間5000枚の運転日報をkintone化してペーパーレス化を実現
藤原氏が入庁した2016年当時は建設局西部建設事務所に所属されました。西部建設事務所は道路や公園、河川の管理業務を手がけており、通報があったらすぐに現場へ駆けつけられるように公用車を30台所有していました。そして出庫する度に紙の運転日報を書いていました
毎日、運転日報の紙を集めてファイリングし、課長に1枚1枚ハンコを押してもらってから保管します。さらに、最終的にはPCで管理するために、紙に書かれた走行距離などをExcelに全部打ち込んでいました。これらの手間で膨大な雑務が発生していたのです。なんとその枚数、1年間で5000枚。しかも、両面印刷です。毎年段ボール2箱分くらいが積み上がっていきました。
年間5000枚も蓄積する紙の運転日報の作成・管理が大きな負担になっていました。
2019年4月、神戸市とサイボウズ株式会社は事業提携協定を締結し、共催でワークショップを開催するなど、業務改善を進めることになりました。そんな中、神戸市の情報システム部門がkintoneを導入したので使ってみたい人は勉強会に参加するように、という案内がきたのです。興味を持った藤原氏は手を挙げてkintoneアカウントを試しに使わせてもらうことになりました。
「まずは、公用車の台帳をアプリ化してみました。公用車の台帳はExcelと証書のコピーで管理していましたが、いざ情報を確認しようとすると見つけるのに手間がかかっていたのです。そこで、kintoneでExcelの台帳を読み込み、添付ファイルフィールドに車検証のPDFを入れられるようにしました」(藤原氏)
Excelには通知機能がないので、翌月に車検を迎える車両の情報を印刷し、貼り出して共有していたそうです。紙なので、1箇所でも情報が更新されたら、印刷し直しです。kintoneをアプリ化することで、車検切れの1ヶ月前に通知が届くようになりました。
思い通りにアプリが作成できたので、次に運転日報をkintone化しようと考えました。しかし、運用方法で課題が出たのです。公用車を管理する職員は1人で、上司の係長を入れても2人です。しかし、運転日報を入力する人は60人います。特にkintoneを使わない58人分のライセンスを確保する予算はありませんでした。
そこで藤原氏が情報システム部門に相談したところ、「フォームブリッジ」を勧められたそうです。運転日報を「フォームブリッジ」で入力してもらえば、圧倒的にコストを抑えられます。また、シニア層の職員も多く、kintoneをイチから覚えてくださいと現場に投げることは難しかったという理由もありました。「フォームブリッジ」であれば、入力項目を極力減らすことで、シニア層にも使ってもらえるという効果も期待できます。
2019年にkintoneアカウントを手に入れ、すぐにアプリを作成しました。そこから3ヶ月間かけて全職員に試用してもらい、職員一人一人に使い勝手をヒアリングしたそうです。
「まず言われたのが、kintoneとフォームブリッジだけだとデータ入力しかできない、ということです」(藤原氏)
日報には走行距離を入力しなければならず、計算するには走行前の数値を記録しておく必要があります。しかし、通報を受けて現場に向かうときは急いでいるので、その時間がありません。紙であれば前日の走行後の距離を参照して、走行後に計算できたのです。
そこで「kViewer」を導入し、「kViewerルックアップ」機能を設定して前日の走行後の距離を当日の走行前の距離に自動的に入力するようにしました。また、同時に車両番号も自動で入力し、ユーザーの手間を省きました。
入力ミスをフォローする機能も搭載しました。手入力の場合、よくゼロが一個多かったりするのですが、そのままだと後で問題になってしまいます。基本的には決められた区域内でしか移動しないので、1回の運転距離は多くても30~40kmです。そこで、入力された値が100kmを超えていたら、管理者のメールアドレスに通知を送り、事実確認して訂正できるようにしました。
入力項目の削減にもこだわりました。同乗者の名前をフルネームで入れる必要があるのかどうかまで規定を確認し、問題なかったので乗車人数の入力に一本化しました。以前の紙では、同乗者の氏名を入力する欄があったので、なんとなく書き続けていたのです。
「フォームブリッジのUIにすごくこだわりました。入力欄がずらーっと並んでいたら何が何だかわからなくなってしまうので、ラベルフィールドを入れて項目ごとに整理してあげました。例えば、車の点検項目であれば「車の点検項目」とラベルを表示して罫線を引き、見やすくしたのです」(藤原氏)
運転日報の入力フォームです。入力項目の削減に注力しました。
kViewerルックアップで走行後の距離や車両番号が自動的に入力されるようにしました。
現場を回る職員はPCを持っていないので、共有のiPadを1台入力用に用意しました。作業後の片付けの合間にみんなで回して入力してもらっています。また、自分のスマホで入力してもらうこともでき、それぞれの職員に前向きに使ってもらえているそうです。
運転日報には決められた形式があるので、プリントクリエイターを利用し、指定の様式でPDFファイルで出力して、庁内システムで承認するフローになりました。一切紙に印刷する必要がなくなり、約5000枚の日報を出力する無駄が省けたのです。
運転日報アプリが成功したことで、なんと市長の公用車にも同じシステムを横展開することになりました。市長の公用車は公文書公開請求があると日報を公開しなければなりませんが、kintone化しておけば検索すればすぐに情報が出てくるようになり、業務改善が実現しました。
決裁用の書式に合わせてプリントクリエイターでPDFを出力できるようにしました。
国勢調査の問い合わせ対応を電話からフォームブリッジに移行し、残業時間を100時間以上削減した
藤原氏は2020年5月に町作り課に異動となりました。選挙や統計調査を行う部署で、9月から始まる国勢調査の業務に携わることになったのです。そこでたまたま隣の席になった人が、藤原氏が前の部署でkintoneを活用していたことを知っており、相談を持ちかけてきました。
国勢調査は全世帯が対象なので、問い合わせが凄く多いというのです。1日中電話は鳴りっぱなしで、常に誰かが電話をしている状態だったそうです。日中、その問い合わせを受け続けることになるので、自分の仕事を業務時間外に行うことになります。結果的に、職員全員の残業時間がその月は、1人あたり100数十時間になってしまうこともありました。まず、問い合わせに対応する時間を減らしたいという課題があったのです。
「最初に電話での問い合わせをなくすことを考えました。電話は一度取ると、5~10分時間がかかってしまいます。作業中なら集中が途切れるというデメリットもあります」(藤原氏)
異動してすぐ6月にアプリを構築したのですが、かかった期間は1週間程度でした。その後テスト期間を経て、9月に稼働させました。もちろん、今回もフォームブリッジを問い合わせフォームとして活用しました。
問い合わせで多いのが調査書類の追加依頼で、この発送作業は別のサポートセンターが行います。例えば、調査票は5人までしか記入できないのですが、6人以上の家族には調査票をもう1枚渡す必要があります。調査票をなくしてしまった、というケースもあるでしょう。この問い合わせまで市役所で受けてしまうと作業量が増えてしまうので、kintoneから自動的に通知を飛ばすようにしました。
お問い合わせフォームは1つなのですが、ラジオボタンで「用品追加配送依頼」を選べば、自動的にコールセンターにメールが送信され、対応してもらいます。「その他調査に関する問い合わせ」を選べば、別のアプリにデータが追加され、市役所の職員が対応するようにしました。
その結果、公開期間約1ヶ月で1万3000件の問い合わせを受け付けました。単純に、その分の電話応答を削減できたことになります。2015年の国勢調査の時は平均残業時間が、職員1名あたり平均150時間でしたが、2020年は一番忙しいときでも50時間と約100時間もの削減を実現しました。
フォームブリッジの設定画面です。フォームで選択した値によって、データを追加するアプリを自動的に切り替える設定をしています。
神戸市の選挙活動にもフォームブリッジを活用することで業務の効率化を実現
「中央区役所にいる知り合いに国勢調査の問い合わせアプリを見せたら、国勢調査だけだともったいないので、選挙でも使おうという話になりました。国勢調査でkintoneを使ってよかったと感じた若手でチームを立ち上げ、選挙管理委員会の局長まで話を持っていき、今年から導入されることになったのです」(藤原氏)
kintoneとフォームブリッジを活用することで選挙事務に従事する応援職員の公募を行うことができるようになったそうです。本人が従事を希望する区を入力し、人手が足りない区選挙管理委員会がkintoneに入力された情報をもとに声掛けをできるようになりました。これまでは公募という仕組みがなかったので大きな変化です。
また、選挙期間中に掲示するポスターの管理もkintoneに移行しました。以前はデジカメで撮影した写真を送ってもらい、Excelに落とし込んでいましたが、現在はタブレットを使ってフォームブリッジに写真をアップロードしてもらうようにしました。kViewerから前回の写真を閲覧できるようにしたので、Excelを使わなくなり、紙の削減も実現できました。
「kintoneはデザイン設計から入る珍しいツールだと思っています。他のツールはデジタルリテラシーがないと使えないですが、kintoneはマウスのドラッグ&ドロップで作れます。そのため、50代のベテラン職員からのウケがいいのです。ただ、kintoneを最大限使いこなそうとすると、標準機能だけではかゆいところまでは手が届かないので、フォームブリッジとkViewer、プリントクリエイターの三種の神器を組み合わせています」(藤原氏)
最後に、今後の展望について伺いました。
「今は西区役所全体にkintoneを広める活動をしており、kintoneとフォームブリッジのハンズオンセミナーを開催したりしています。市役所の業務は一般の方たちとやり取りすることが多いので、kintoneだけではできないことが多々あります。そんな時、フォームブリッジとkViewerがあれば大抵のことが実現できます。このことを多くの職員に広めていきたいと思います。まずはkintoneを触ってもらい、業務改善の楽しみを知ってもらえればと考えています」
と藤原氏は締めてくれました。
多数の市民が利用するシステムとしても、kintone×フォームブリッジが大活躍した事例でした。データの参照にはkViewer、既存書式での出力にはプリントクリエイターを活用し、導入効果もばっちりです。今後もkintoneとフォームブリッジの活用を推進するとのことで、これからも神戸市のDXはどんどん進んでいきそうです。