累計35万人のワクチン接種受付業務と保育所一時預かり事業の予約をkintoneでデジタル化した橿原市役所
橿原市役所 様
奈良県橿原市役所の企画戦略部デジタル戦略課は、令和3年に創設された「攻めのデジタル部署」です。庁内の情報管理や業務フローのデジタル化を推進するほか、市民向けに庁舎に足を運ばなくても各種申請や手続きが簡単にできるような環境構築に取り組んでいます。
新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、令和3年に政府は「ワクチンの1日100万回接種」を掲げました。接種予約者の受付管理をデジタル化するためにkintoneとトヨクモ連携サービスを導入いただいたことをきっかけに、現在も業務フロー改善のためにkintone活用の場を広げています。
本記事では、橿原市役所 企画戦略部 デジタル戦略課の杉本隆二氏よりお話を伺いました。
総務省の「自治体DX推進計画」による支援を受け、kintoneとトヨクモ連携サービスの導入を決定
コロナ禍の影響を受け、令和2年に特別定額給付金事業が実施されましたが、この頃に行政のデジタル化を至急進める必要性が発覚しました。迅速な手続きが求められるほか、感染拡大予防策として「接触しない」ことが一番の有効策であったためです。
DX化を進めるためのツール導入費用を国が支援することとなり、杉本氏は以前から気になっていたkintoneを検討。しかし、現場に即した導入イメージや活用方法を庁内に周知し、合意形成するための時間がなかったため、まずは他社のフォームツールを導入されました。
その後、令和3年からワクチン接種が始まるにあたり、担当部署の方が杉本氏に接種予約者のアナログな受付業務に関して相談を持ちかけたそうです。ちょうどこのタイミングで橿原市役所とサイボウズ社との打ち合わせがあったため、想定される利用シーンでのkintoneの使い方を入念に確認。結果、希望通りの使い方ができると判断し、kintoneを導入されました。
また、元々利用していた他社のフォームツールはデータ収集には強みがあるものの、集計結果の編集や外部公開などの機能はなかったとのこと。これを実現するために、トヨクモのkintone連携サービスであるFormBridgeとkViewerも同時に導入いただきました。
特に下記の点に利便性を感じ、導入の決め手となったそうです。
⚫︎庁内ネットワーク外でも利用できる点
⚫︎集計結果がkViewerでリアルタイムで表示され、共有できる点
⚫︎FormBridgeとkViewerの連携で受付システムが構築できる点
⚫︎同じデータベースをもとに複数のフォームを作成できる点(受付・キャンセルで利用)
累計35万人のワクチン接種受付業務をFormBridge × kViewerの連携でデジタル化。30分ごとの集計作業や3万枚以上の紙名簿を削減
複雑な業務フローのなかで欠かせない連携。対応件数増加でアナログは限界に
ワクチン接種の受付業務は非常に複雑なフローでした。
受付窓口を4〜5箇所ほど設け、窓口ごとに用意した複製の紙名簿を使って来場者の名前等を照合し、30分ごとに正本に集計を行っていました。集計方法は受付リーダー1人が正本の紙名簿を上から順に読み上げ、該当者の受付をした担当者が挙手をし、チェックしていくというアナログなもの。予約者多数の日は朝9時から夜8時ごろまで受付することもあったため、この作業はとても負担が大きかったそうです。
また、集計結果はそれぞれ別フロアにある接種会場、ワクチン置き場(ディープフリーザー)に電話や無線で伝達していました。
当時のワクチンはとても貴重で、極力廃棄を出さないための管理が必要でした。接種1時間前までにワクチンを解凍する必要があり、受付開始時は時間帯別の予約者数から予想して準備すれば良いものの、終わりに近づくと当日欠席などで余ったワクチンを次の時間帯の接種に回すという対処ができないため、残り何名ほど来られるのかを考えながらの対応が必要になります。
接種開始当初はワクチンの供給量自体が少なかったこともあり、なんとか対応されていたそうですが、次第に供給量が増加。多い日は1日に1,500名ほどの受付が必要だと見込まれ、アナログな方法では対応しきれないと判断されました。
紙の接種受付名簿。正本・副本を用意し定期的に集計作業していた
バーコードを読み込むだけで、処理完了。kintone × トヨクモ連携サービスで叶えた受付の自動化
そこで、kintoneとトヨクモ連携サービスを以下のように用いて受付フローをデジタル化しました。
他社のワクチン接種予約システムで受け付けた予約情報をそのままkintoneに移管し、管理するマスタアプリを用意します。予約者に送付される接種券には予約システム側で自動的に付与されたバーコードが記載されており、予約者を識別することができます。バーコードを受付で読み込むと、自動でkViewerのリストビューの検索窓にその数字が入るようにJavaScriptでカスタマイズ※。
検索ボタンをクリックすると、kintoneのマスタアプリに登録されている予約者情報の中から該当する情報を抽出して表示します。その情報をFormBridgeに飛ばし、受付にチェックが入った状態で登録します。すると、kintoneのマスタデータも更新される仕組みです。
※カスタマイズは、サポート対象外となります
バーコードを読み込んで検索し、kViewerのリストビューで該当者を表示
kViewerからFormBridgeへ遷移した画面。受付確認にチェックを入れた状態で回答すると、マスタデータも更新される
業務負担も紙の利用枚数も削減に成功。35万人の接種受付を無事完遂
「JavaScriptなどで機能のカスタマイズができるのは本当に使い勝手が良いですね」と杉本氏が評価する通り、この仕組みは、業務負担の軽減や紙の利用枚数削減に大きく貢献しました。
具体的にはまず、受付時にバーコードを読み取るだけになったので、何枚もの紙名簿をめくって対象者を探す手間を削減。1人当たり1分近くかかっていた業務が10秒ほどまでに短縮されました。
また、受付状況が自動更新され最新版の受付件数をkViewerで共有できるので、30分ごとの集計作業も、各フロア間での電話や無線での伝達作業も不要になりました。
受付状況一覧をkViewerを用いて各フロアで共有できるようになった
さらに紙の利用枚数については、『10枚×5〜10部(毎回使う紙名簿数)×3回(週あたりの平均実施回数)×2年間(トータル実施期間)=16,200〜32,400枚』もの削減に成功。
こうした工夫もあり、最終的には2年間で累計約35万人の接種を、無事に完遂されました。
保育所一時預かり事業の予約オンライン化をFormBridge × kViewerで実現し、保育士と保護者の負担を軽減
電話受付、紙+Excelの管理で保育所の業務負担大。利用者は「早い者勝ち」で不公平感あり
また、保育所一時預かり事業の予約についても、kintoneとトヨクモ連携サービスを利用してオンライン化されました。この事業は、橿原市が定めるDX推進戦略に関するアンケートで、不満の声もあがっている事業でした。
橿原市では3つの園で一時預かり事業を行っており、利用者は、事前登録をしたのち、毎月決まった日の決まった時間から電話で予約をする仕組みです。3つの園のうち2つの園を利用することができ、それぞれの園ごとに、そして2園合計で利用できる枠数が決まっています。1週間で最大3回までというルールもあります。事前登録者は毎年300人前後です。
予約の電話対応は一時預かり事業を行う保育所がしており、保育士さんが対応していました。受付は2人体制で、通常の保育時間中に予約を受け付けるため受付開始から1〜2時間は忙殺されて手があきません。その間、残りの保育士に子供を保育する負担が集中します。当然ながら、電話が集中するため繋がりにくく、電話回線がパンクしてしまうこともあったそうです。
利用者側も、電話が繋がった人は余裕を持って最大枠数まで予約することができますが、繋がらなかった人は残り少ない予約枠の中から予約するしかありません。一時預かりの利用は電話が繋がるかどうか次第、先着順で不公平感が拭えませんでした。
また、各園での予約枠管理は紙のリストに手書きで行っていました。各園1日あたり15枠ほど予約枠を保持しており、電話で利用条件を満たしているか確認しながら、翌月1ヶ月分の予約を受け付けます。もし利用者が別の園も利用する場合は、各園での予約数を電話で確認することになります。
紙のリストで予約枠を管理しながら電話受付していた
利用後も実績報告が必要です。給食やおやつは実費が発生するため、徴収金額との突合をしなければならないからです。お子さんの年齢や預かる時間によって給食やおやつの有無は異なります。また、生活保護受給世帯の場合は免除が適用されることもあり、こうした複雑な個別事情を紙からExcelに転記して集計し、市役所の担当課に報告する形で運用されていました。これも保育士が業務終了後の時間などに対応しており、かなりの業務負担となっていました。
利用実績を集計していたExcel。紙のリストから転記していた
kintone × FormBridge × kViewerで、空き枠確認・申し込み・実績報告の手間を削減
ワクチン接種受付業務時に導入したkintoneは、コロナ禍における国の支援金で契約した関係上、それ以外の用途に利用できず、業務終了に伴い一旦契約終了に。しかし、この業務を通じて利便性を感じていただき、保育所一時預かり事業でもご利用いただく運びとなりました。
すでに利用していた他社ツールでの自動化構築も検討されたものの、利用者の事前登録情報を活用できず、予約時に再度0から情報入力していただく必要がありました。杉本氏がもっと利用者の負担を減らせないかと考えていたタイミングで、サイボウズ社が提供するkintone1年間無料キャンペーン(自治体DX応援プログラム)に当選し、本格的に業務改善事業を開始しました。
トヨクモ連携サービスもあわせて導入することで下記のメリットも感じていただき、令和5年4月にこの仕組みを用いたオンライン予約システムをリリースされました。
⚫︎事前登録したアドレスで利用者を制限できる点
⚫︎予約情報をもとに実績入力が可能で、集計も簡単にできるため保育所の実績報告業務負担を軽減できる点
実際の仕組みとしては、一時預かり事業の利用者情報を管理したkintoneのマスタデータを用意。利用者はkViewerのMyページにログインし、カレンダービューで予約の空き枠を表示、そこからFormBridge連携で申し込みフォーム画面へ移動し、予約申請ができるようになりました。申請後の空き枠管理は他社ツールと連携しており、申請数や条件を考慮したうえでカレンダービューの空き枠残数が更新されます。
さらに、予約サイトへのアクセス集中も予想されたため、申し込みが殺到する受付開始日は午前中までに申請していただいた分を午後に抽選する仕組みに変更しました。FormBridgeの仮想待合室機能も導入し、さらなるアクセス集中対策も行っています。
また、予約申請時に預かる時間も選択するため、その情報に基づき実費が発生する給食やおやつの回数も自動で設定されるように。自動的にkintoneのマスタデータに登録された予約情報を元に保育所での実績確認ができるようになりました。予約日に利用が発生したかどうかだけチェックすれば、年齢や利用時間、個別事情に応じた実費計算も自動的にされるようになりました。
予約申請時に自動で実費の計算がされるように
オンライン化で、保育所の業務量削減と利用者の不公平感解消ができた
杉本氏は、このフローのおかげで、保育所、利用者双方の物理的・心理的負担を軽減することができたと言います。
保育所側としては、まずは予約時の電話受付時間として「毎月3園×2人×1〜2時間=6〜12時間」が削減されました。加えて、予約表の紙での出力も不要に。実績報告も予約状況や実費計算が反映されたものを、その通りに受け付けたかどうかチェックするだけでよくなりました。
利用者側としては、受付開始日の午前中に予約申請し午後に抽選を受けられるようになったことで、先着順の不公平感を軽減。以前よりも多くの利用者で予約枠を分散して利用できるようになりました。
また、去年の冬に仮想待合室も導入されました。今現在は大きなトラブルなく運用されていますが、もし今後アクセスが集中してしまった時でも、目安の待ち時間を表示した上で接続があった順に利用者をフォームに案内できるため、利用者に「いつになったら接続されるのかわからない」という不安を与えることなくフォームを運用していただけます。
さらに、予約状況が可視化されたため、保育士のリソース再分配が可能になったという副次的効果もありました。
全ての園の予約状況を一覧で確認できるように
利便性向上を目指した業務改善をkintone主軸で展開していきたい
このほかにも、二次輪番病院での受付報告や請求書発行でPrintCreatorを使っていただいています。
二次救急明細表
請求書発行
今後は、庁内でとても煩雑なワークフローになっている旅費精算事務(出張申請〜旅費請求)の簡略化にもkintoneを活用していきたいとのこと。
「現在は最初に出張命令の書類に押印し、財務会計システムで自分で調べた必要な交通費や宿泊を入力し経費申請、出張から戻ったら再度事後精算という流れになっています。しかし、出張命令の時点で行き先は決まっているので、APIやFormBridgeを活用して自動的に必要経費まで算出された出張命令書が作れるのではないかと思っています。PrintCreatorを使って、事後精算時の根拠資料も作れそうですよね」(杉本氏)
現在の出張旅費精算フロー。紙の帳簿に押印ののち、Excelで旅費申請。出張後も別フォーマットで精算が必要
「橿原市役所の企画戦略部デジタル戦略課は『攻めのデジタル部署』として創設された部署。手続きやフローを簡略化して、市民の方や現場が『すごく楽になった』と実感していただける状態を目指したいですし、行政だからできないということを減らしていきたいです」と杉本氏は締め括られました。
記事公開日:2024年5月31日
※事例記事の内容や所属は取材当時のものとなります